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ほしいも村 飛田農園
園主 飛田 勝治さん 裕子さん
干しイモの苗を普及
シーズンは本番目前
ひたちなか市出身。東京農業大学卒。農業経営を学び卒業後、実家の8代目を継いで就農。飛田農園を立ち上げて12年を迎える。独自に選抜した「トビタタマユタカいきいき34」は干しイモの原材料として多くの生産者が採用。産地の品質向上に大きく貢献している。
- Owners Company
- ほしいも村 飛田農園
- TEL.029-263-0024
- http://www.geocities.co.jp/hoshiimomura/
- ひたちなか市部田野831
茨城の冬の味覚を演出する原材料を発信
震災後、野菜の直売所も開設、生産者と消費者の架け橋に
茨城の冬の味覚を代表する干しイモはこれからがシーズン。
その一大産地であるひたちなか市の生産者100軒ほどが採用している苗が、ほしいも村飛田農園が選抜して開発した「トビタタマユタカいきいき34」という品種です。
干しイモ用の苗はタマユタカが主流ですが、飛田さんが長年にわたって選抜を繰り返して作り上げた苗は、従来のものより収量で120%以上を誇り、肉質も良 く、県の農業普及センターから「ぜひ分けて欲しい」と乞われて提供。それが今ではひたちなか地区の干しイモ生産の主流の苗となりました。
「使った生産者から『良かった』という声を聞いています」と話してくれた飛田さん。
「干しイモというのはその年の天候などにも左右され、毎年同じものが出来るとは限りません。
10年やっても満足出来るのは一つぐらい。
思い通りにいかないものなのです」と話し、「同じ生産者でも毎年同じものは作れません。
畑が違えば同じトビタタマユタカを使っても同じものにはならないのです。
それをいかに平均的なものにしていくのか大変なのです」と、生産の苦労も話してくれました。
干しイモは5、6月の苗付けから始まり、10月くらいから収穫を迎えます。
飛田さんの農園ではタマユタカを含めて7種類ほどのイモを栽培。
タマユタカのほかに「金星」「最高級いずみ」「月明かり」「ニンジンイモ」「ムラサキイモ」などイモのカラーバリエーションも豊か。じっくりと天日干しさ れ、味の良さばかりではなく、見た目の美しさも兼ね備えた干しイモが、12月から翌年の3月末ころまで多くの人々の口を楽しませてくれます。
毎年、ひたちなか市で開かれる「干しイモ品評会」では最優秀賞を獲得するなど、飛田農園は上位入賞者の常連としても知られています。他の最優秀に輝く生産者の苗も「トビタタマユタカ」で、飛田さんは「嫁に出した娘と毎年競い合っているようです」と笑います。
飛田さんの農園では「麦間(ばくかん)栽培」という栽培方法でイモを育てます。「これは古い栽培方法で今ではやる農家さんも少なくなってしまいましたが、麦の間にイモ苗を植え付けるのです」と飛田さん。
イモの苗は根を張るまでは非常にデリケートな作物で、阿字ヶ浦海岸に近い飛田さんの畑には5月ごろでも冷たい海風が吹き、苗が枯れてしまうそうです。
そのため梅雨の晴れ間に収穫した麦を風よけにして、苗を守ります。しかも、麦の収穫後のわらは土壌を豊かにし、連作障害にも強い地力の維持にも役立ちます。
しかし、麦は取引価格が低く、収入が見込めないために、ほとんどの生産者に敬遠され、今ではこの農法を守っているのはわずか3、4軒ほどになってしまいました。
飛田さんが栽培する二条大麦はビール用に出荷され、他にも「食べる分だけ」といいパン用のユメホウシという小麦も栽培しています。ユメホウシはパンの街を標ぼうするつくばから送ってもらい、農薬を使わないで栽培。
麦の収穫後は16日間かけてゆっくりと天日干しして製粉します。
その粉を奥様の裕子さんと二人でパンに加工します。そのパンは、夫婦で「いつかはパンを焼きたい」という願いがかなった事を受け、「夢叶うパン」と名付けられ、飛田農園の直売所で味わうことができるようになりました。
裕子さんは「パンに干しぶどうの代わりに干しイモを入れても美味しくなります。
ご家庭でパンを焼くことが出来るのであればぜひ試してほしいですね」と同じ畑で育った小麦と干しイモのコラボレーションを提案します。
3月11日の東日本大震災後、飛田農園では「農家としてできることをやりたい」と今年6月から自宅敷地内に直売所を設けました。
「からだに良いもの、ストレスフリーな暮らしのために」と無農薬で育てた野菜の直売に踏み切りました。
毎月第1、3土曜日の午後2時から5時までの限られた時間ですが、口コミで買い物客が訪れるようになり、干しイモシーズンばかりではなく、1年を通して飛田さんの直売所は人々の笑顔があふれる場所となりました。
小麦を使ったパンや野菜の直売などさまざまな取り組みにチャレンジしている飛田さんですが、基本はやはり干しイモです。干しイモ生産者の間では機械化が進 み、干しイモの乾燥にも機械が導入されて、わずか2日ほどで干しイモを乾燥できるようになりました。それでも飛田さんは昔ながらの加工にこだわっていま す。
「天日干しだと7日は乾かさないといけません。手間はかかりますが箱を開けた瞬間、お日様の香りがするんです」と裕子さんは自然の恵みに感謝する言葉を発します。
飛田さんは「どの生産者のみなさんも良いものを作りたいと願っています。
ところが問屋さんに卸すと他のものと混ぜられてしまいます。
そこで良いものは直売で、悪いものは問屋という構図ができてしまい、干しイモのためには良くない環境になってしまいます。」と、干しイモ業界の現状にも鋭く苦言を呈します。
今年の作柄を聞くと「例年にまして上質なイモが出来たと聞きます」と飛田さん。さらに裕子さんは「柔らかくて透明感があって甘い干しイモができたそうです」と、他の生産者の評判を話してくれました。
飛田農園では米作りも行っていますが「米作りは面白いのですが収入には結びつきません」と飛田さん。
それに対して裕子さんは「男という字は田んぼに力と書くのです」と米作りの意義を強調。夫唱婦随で農園の経営に汗を流す二人の姿を今後もお日様が見守ってくれるのでしょう。
これから起業する方への一言
“直接来てくれるお客様を大切にして、
将来の発展に備えるべき”
干しイモ作りはリスクも大きく生産者としては大変な作業が伴う。大手デパートなどからもオファーがあったが、責任は自分に掛かってくるので断っている。直接来てくれるお客様を大切にして、将来の発展に備えるべき。
■古くからの農法を頑なに守り続け、生産物そのものに真摯に向き合う
■目的はひとつ、消費者のために
■儲からなくてもやり続ける努力