President file
9

早川ぶどう園
代表  早川 光明さん

多彩なブドウを提供
いろいろな味が楽しめると好評

1941年生まれ。生粋のみとっぽで、先祖は水戸藩の武士。1950年代に父親が手掛けたブドウ畑を継ぎ、水戸駅に最も近い「果樹園」を経営。20種類ものブドウが味わえるのはここだけ。

Owners Company
早川ぶどう園
TEL.029-241-6157
水戸市千波町657

水戸市のど真ん中で果樹園を経営少量多品種で、需要に応える

水戸市民の憩いの場所としてジョギングやウオーキングを楽しむ人々が集う千波湖は、今や水戸市内唯一の人通りの多い"繁華街"といっても良い場所でもあります。

その千波湖を見渡すことのできる所に「早川ぶどう園」があります。千波湖畔からわずか数十歩で、「こんな所があるの?」と別天地が広がっています。

早川ぶどう園の早川光明さんはこの地で果樹園をはじめて3代目の当主です。古くは水戸藩の武士としての家系を持ち、普段は千波台地の丘陵地で農業を営み、イザお城に急変が遭ったときには船で千波湖を渡るように非常時に備える役目を背負っていました。

この地で果樹栽培を始めた歴史は第2次大戦前にさかのぼるようで、この周辺では「千波ナシ」といわれるようにナシの栽培が盛んに行われていました。また、「御茶園」という名前が残るように、お茶の栽培など古くから城下町の都市近郊型農業の中心地でもあったようです。

「千波ナシ」の栽培から戦後の食糧難を経て、ブドウ栽培に移ったのは昭和32年からで、光明さんの父親の代から。「この周辺の土壌は肥えすぎて、ブドウ栽培には向かないのですが」と、光明さん。

それでも試行錯誤を繰り返し、現在では水戸駅から最も近い観光果樹園としての地位を確立してきました。

土地が肥えているために、早川さんはブドウ苗を独自に開発した大きな植木鉢のような枠で囲い、痩せた土壌を再現するための工夫を行いました。

この工夫が実を結び、きれいに一列に並んだブドウ棚が季節になるとたわわなブドウの実で果実の暖簾のような光景を産み出していきます。

栽培するブドウの品種は約20品目。ブドウは欧州系と米系と大きく二つの種類に分かれますが、早川さんのところは欧州系で、早川さんは「多品種を栽培しているのは、自分の趣味でもあり、お客さまに多くの味を楽しんでもらいたいから」と話します。

普通はブドウに袋かけを行いますが、早川さんのブドウはどれも透明のビニール袋に包まれています。これはお客さまがブドウの種類を判別することができるようにとの配慮からで、これによって、ひと房1000円ぐらいから3000円以上もする高価なブドウとの見分けがつくのです。

さらに新たな品種を産み出すために「接ぎ木」の技術も研究し、1本のナシの木に洋ナシなど数種類のナシを栽培するなど、限られた農地で多品種を作り出す工夫を施しています。

収穫の時期は8月のお盆を過ぎてから9月下旬までのわずか2カ月足らずですが、その間にナシの収穫も重なります。食べごろを迎えたブドウやナシは市場へは一切出荷されず、すべてもぎ取りかリピーターによる宅配となって全国に旬の味が届けられます。

また、幼稚園児などが集団でブドウ園を訪れ、自分の手で収穫する喜びと果物の生産現場を目の当たりにして楽しいひとときを過ごしていきます。

子どもたちにブドウの収穫を楽しんでもらうのは、大切な食育の場所の提供となりますが「収入には結びつかないのですが、これも農家の役割」と早川さんは目を細めます。

近代美術館に隣接し、周囲には住宅が建ち並ぶ水戸の一等地。バブル期には激しい土地買収の攻勢にもあったそうですが、一貫して先祖代々の農地を守り抜いた早川さんは手塩に掛けたブドウ畑やナシ畑を心底愛おしそうに見つめます。

園内には何と石棺のある古墳や縄文時代の貝塚もあるという悠久の歴史を伝える土地でした。「先日は大学の先生がきて発掘をして、いろんなものも出土してます」と、早川さんが見せてくれたのはメノウのような石でできた石器でした。

 「ブドウの収穫時期は短いですが、枝のせん定や実の摘取など一年を通して手を掛けなければなりません。

害虫や病気などにも対応するためネットを掛けたり、雨から守るためにシートを掛けたり、手間ひまが掛かります」と、早川さん。それだけに収穫を迎えた実はどれもはじけそうに実り、甘い香りとともに「早川さんのブドウじゃなくちゃだめ」という多くのファンを抱えています。

ブドウ畑はシートやネットで覆われているために、外に逃げ出すことのできないセミが鳴いています。早川さんは「この畑で育ち、この畑の中で一生を終えるセミなんです」と果実とともに生きる昆虫たちにも優しい態度で臨んでいます。極力農薬を使わないようにし、しかも大切な果実が病害虫にやられないようにするための二律背反する農業を実践しているのです。

厳しい条件が付くエコファーマーの認証を得ているため、減農薬でいかに良い果実を育てるか、日々早川さんのブドウ園オーナーとしての努力は続いています。

全国的にも県庁所在地の駅からわずか徒歩15分ほどにある果樹園の存在は珍しいものです。緑と自然豊かな水戸の素晴らしさを実感できる場所として「早川ぶどう園」の価値はますます高まりそうです。千波湖の散策の足を止めて、「早川ぶどう園」を覗いてみるのも新しい楽しみです。

Pick up Success in IBARAKI

質問1茨城は起業するのに適しているか?
水戸で新たに就農するのは土地確保が難しいかもしれない。でも何でもできる土 地なので意欲があれば遊休農地などを借りで始めることも可能
質問2起業する際にまずやるべきこと。また、必要な準備は?
安易な気持ちで就農するのはリスクが伴う。農業は自然相手で農機具など事前に 投資が必要で、しかも収入となるのは早くても3年か5年かかる
質問3この土地で有効なプロモーション活動は?
長年の信頼関係で成り立っているので、それがいわゆる『老舗』の力。最近はネット の口コミも大きな存在で、ネットの評判で来るお客さんもいる

これから起業する方への一言

“やるからには一生の仕事として取り組んでほしい”

農業は人間の食に関わる大切な仕事。常に栽培する農作物と向き合い、消費者に安全を届ける最上の技術を模索する姿勢が大切。新たに就農するのは大変ですが、やるからには一生の仕事として取り組んでほしい。会社と違って「自分に合っていない」などの理由で、途中で辞めるような気持ちを持たないで下さい。

■新たな就農には資金と収入までの時間が大切。長期的な計画性必要
■ネットでの口コミも顧客確保の一つだが、通販にはリスクも伴う
■食の安全を届けるための技術と研究を欠かさず、日々努力する



写真を右に1つ進む

写真を左に1つもどる