President file
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株式会社 一望
代表取締役  蔵本 剛さん

地域発展のアイデアも提案。
日本独自の旅館文化伝承に貢献

父親(現会長)が1978年に独立して、現在地にレストランを開業。翌年、民宿を始める。85年のつくば科学万博の前年に旅館業を本格営業。2001年に温 泉が湧出して11年前から日帰り温泉センター「つくば湯」も併設。将来の夢は温泉街として「射的場」などを作り、各旅館の宿泊客が楽しめる場所を作るこ と。竜巻被害者へは5月末まで無料入浴も実施。

Owners Company
彩香の宿 一望
TEL.029-866-2222
http://www.ichibou.com/
つくば市筑波64-2

「一期一会に、おもてなしの心」を忘れずに
関東平野を一望できる温泉宿の社長として地域貢献にも取り組む

 開口一番、蔵本社長は「日本の宿の歴史というのは特殊な文化なのです」と旅館の特異性を説明してくれました。「西洋文化のホテルは『個』を第一に考えます が、日本にある昔の宿というものは、もちろん個室もありましたが、基本的には相部屋で、共同で使う部分が非常に多いのです。また、旅館を取り仕切っている のが『女将』ということにも表れているように、女性の立場が強い(昔は)珍しい業種で、他の国には無い日本独自のスタイルを持つ旅館は、日本の文化そのも のを伝承しているんです」と言います。

 旅館と同じ宿泊施設にホテルがありますが、私も子どもの頃は「旅館とホテルはどう違うの?」と聞 かれると、「旅館は畳で寝て、ホテルはベッドで寝る」などと答えていました。しかし、20年にわたり旅館業に携わってきて、旅館というものの独自性、特異 性を肌で感じ、新たな答えを見つけ出せた気がします。そこから、「旅館というのは本当に面白い」と気付き始めたのです。

 旅館の特異性に ついて、その一例をエピソードを交えて紹介してくれました。「毎年、筑波大学入試の前に受験生を受け入れるのですが、個室を予約される方は、ご飯を食べる 際などもお一人で、会話も無く、せいぜい受付にてバスの時間を聞かれる程度です。しかし、相部屋の受験生達は違います。ご飯を食べる時にも、試験の情報交 換などをしながら楽しそうに過ごし、終始リラックスしています。明日はそれぞれがライバルになる存在ということを忘れているかの様です。そのような姿を何 年も見てきました。」と、日本の宿の持つ共同空間から生まれる、コミュニケーション力というものを教えてくれました。

 また、旅館という ものの中でも重要な存在である、温泉や公衆浴場についても語ってくれました。「まず、欧米では水着を着けて温泉に入ります。日本では裸にタオルで前を隠し て、湯船にはタオルはつけないように入るというルールがあります。つまり湯船には、完全に裸になって浸かるんです。見知らぬ人が大勢いる中で。しかしその 環境だからこそ生まれるコミュニケーションがあるんです。例えば、反抗期の子供たちは親の言うことは聞かないが、温泉の中で知らないおじさんに『どこから 来たの?』と声を掛けられると、恥ずかしそうにしながらも、素直に返事をしているんです」。

 自身も、「私もある温泉で、手を入れると熱 くてとても入れそうに無い時がありました。そこで先に入っているおじさんに『水で薄めて良いですか?』と聞いたら、『ダメだ、俺が出るまで入れるんじゃな い』と怒られてしまいました。本人も真っ赤になって我慢しているみたいなのに(笑)。怒られたのですが、良い思い出になりました。今では、鉄板の笑い話で す。裸と裸の付き合いの中で、様々な人と出会い、会話をし、エピソードが生まれていく。それが日本の温泉、公衆浴場の面白いところなんです」と教えてくれ ました。

 そのような旅館や温泉の魅力について、「特に日本旅館・初体験に感動する外国人は多いですよ」と、旅館文化が海外でも通用することを教えてくれました。

  蔵本社長は、旅館組合の青年部長としても活躍。全国組織の中でも北関東信越ブロック長を務 めました。「全国でも最大規模のブロックの部長を務め、自称『ブロック王』なんて名乗っていましたが、全国の方々と知り合いにもなれ、大変勉強になりまし た。また、全国の様々な業種が組織化する中央青年会というのもあって、これには鉄骨関係、コンクリート業など様々な業種の団体が加盟しています。その中で も旅館業は一番お得だなあと思うのです。旅館ですから、全国どこでも知り合いがいて、しかもそこに泊まることができる。それに引き替え、他の業種では他県 の知り合いのところへ行っても、鉄骨やコンクリートを買うってわけにはいかないですから」と、他業種との違いや組織といった部分にまで楽しさを発見するこ とを忘れないのが蔵本社長のようです。

 蔵本社長の発案で、新しい筑波山観光の魅力作りにも取り組みました。その活動で、名産品として筑 波山の御神木をイメージしたコートダジュールの「バウムクーヘン」、周辺4市の特産物を使った名物「つくばうどん」、イベントなどで活躍するキャラクター 「TUPPY」ちゃんの三つが誕生しました。地元のつくばの青年部を中心として、「筑波山に来てもらったお客さまに楽しんでもらえる『名産』『名物』 『キャラクター』を作ろうと奮闘しました。」と蔵本社長。

 また社内では「私が下っ端で入社した場合、こんな社長がいたら良いなという社 長を常に目指しています。たまに社員カラオケ大会などを開くのですが、女性社員と男性社員による真剣勝負の紅白歌合戦なのです。チーム戦により点数を争う のですが、飲み食いしたお金は負けた方が払う仕組みで、これはガチの勝負になって、大変盛り上がりますね」と、お客様はもちろん、社員達をも楽しませる工 夫をいつも忘れません。

 このように人を楽しませる話題の尽きない蔵本社長ですが、経営には真剣です。「かつてティラノサウルスが世界を 支配していたが滅びてしまった。結局生き残ったのはネズミとゴキブリ。変化に対応出来る物だけが生き延びたのです。そこに倣うわけではないですが、経営に も同じことがいえるかもしれません。時代とともにお客さまは常に変化してます。そのような変化に対応するには、巨大な組織である一流の宿より、小回りの利 く二流の宿の方が良い時も多いんです。目指は超二流の宿です!」ときっぱりと言い切りました。

 「一期一会のお客さまに一つでも感動を与えられるおもてなしで、喜んで帰っていただきたい」と言う蔵本社長の宿にはシークレットのお土産があります。それは、宿泊しなければ楽しめない心のこもった素敵なお土産。ぜひ、宿泊してゲットしてみて下さい。

Pick up Success in IBARAKI

“地域を良くすることで、同業者含めた関係企業全体が発展する”

質問1茨城は起業するのに適しているか?
同業者でも、スクラムを組める仲間が集まれれば、どのような地域性でも変えてゆけるのでは?自分だけでなく、先ずは地域を変化させる気持ちが大切。
質問2経営を始める際にやるべきこと、また、必要な準備は?
とにかく強い信念をもって、それを曲げないこと。私には来てくれたお客さまに喜んでもらいたいという信念がある。
質問3この土地で有効なプロモーション活動は?
地域ぐるみで知名度アップに取り組む事が大切。温泉は2001年に湧出したがPH度は日本一。だから「東京から一番近い美肌の湯」とPRしている。

これから起業する方への一言

“印象に残る仕事をすることが出来なかったら、自分の責任と思え”

旅館というのは特殊な文化で、女性目線が非常に大切な分野。竜巻被害でお客様の足も遠のいていて厳しい状況が続いているが、客室の清掃一つでも社員が楽しめる職場環境を作り上げるように努めている。お客さまの印象に残る仕事をすることが出来なかったら、自分の責任と思うことが大切だろう。

■自分が愛せる仕事に邁進する
■日本の伝承文化を次代へ伝える
■地域社会とともに育つ



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