President file
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東神電池工業株式会社
代表取締役社長  永井 忠弘さん

母親の涙で更生。
家業を継ぐために帰郷

バイクが好きでアウトドア全般に精通。家業の3代目としての責任は大きいが持ち前の明るさとバイタリティーで社業の発展に尽くす。電池業界としては62年 の歴史を刻む企業として自社の利益を求めるのではなく地域の人々の企業としての社屋を建設。太陽光発電などの新規事業などにも精力的に取り組む。

Owners Company
東神電池工業株式会社
TEL.029-224-6172
http://www.toshin-fx.co.jp/
水戸市城東1-4-4

原子力事業所などの蓄電施設を提供する
県内唯一のバッテリー会社のトップランナーとして発展

現在、県内唯一のバッテリー会社の三代目社長として今年一月に就任した永井社長。「家業を継ぐことなど考えたことがなかった―」と語るように、その若き日々は現在からは想像できないような迷いの時期もあったと語ります。

  永井社長は自動車の専門学校を卒業後、親のつてで大阪の会社に入社。しかし、わずか半年で退職してしまいます。すぐに茨城には戻ってくることなく、大阪で 暮らし始めます。「大阪の水に合っていたのだと思います。その後3年間、大阪で暮しつつ、なんとか自ら生計をたて生活していました」と、漠然と当てのない 日々を過ごしていたそうです。

 そうした永井社長の元へある日お母さんが訪ねて来ます。それは永井さんに水戸へ帰ってきて欲しいと伝える ための訪問でした。しかし、永井社長は「もちろん帰る気はないよ」と素っ気なく突き放してしまいます。親の願い空しく、断られたお母さんに言葉はなく、し かし、ただ大きな涙だけが静かに流れ出たそうです。この姿を目の当たりにし、大変胸を打たれた永井社長。「母の涙で水戸に戻ることになりました」と、永井 社長は心機一転、家業である東神電池に就職することを決意したのです。

 東神電池工業株式会社は祖父の永井弘さんが昭和25年に水戸の地 で創業、車や船舶の電機関係の会社です。戦争時、水戸に疎開してきた祖父の後を継いだ、現在の会長・永井靖彦さんが社業を発展させ、会社の基礎を着実に築 いていきました。今でも永井社長の机の脇には祖父と当時の社屋の写真が張られており、当時の状況を物語ります。こうして父が社長を務める会社へ入社後、ま ずはエンジニアとして現場の第一線から仕事をスタートさせていったそうです。

 そこでの仕事に「御曹司」というイメージは有りませんでし た。技術職として車の電装関係の補修や取り付け、整備などに従事し、ほかの社員と同様に一社員として懸命に仕事に取り組みました。「3年間暮らした大阪で 関西弁が身についていて、同僚や後輩などと仕事帰りに飲みに行くと、ほかの客からなじられたこともありました」と笑って話すように、その明るく豪快な性格 から社内でも徐々に信用を得ていきました。その過程は必然といって過言ではなかったようです。

 現場の最前線に立たされた永井社長は技術 職の習得ばかりではなく、販売職へも取り組みます。同社が経営している自動車関連の販売店の店長に就任し、直接お客様の声を聞き、それをどんな立場でも活 かすことを学ばれたそうです。「お客様に接することができたのは、本当に良い経験になりました。自分を含め社員のコンディションには波がありますが、常に お客様には同じ態度で接しなければなりません。だから店長時代はできるだけレジに近い位置にいて注意を払いました」と永井社長は顧客に近づく努力を欠かし ませんでした。「これは今でもどのような現場でも言えるのですが、自分は経理だとか、総務だとか、修理だとか、お客様と直接、接することがなくても常にお 客様のお役に立ちたいということを考えることになりました」と、この販売職の経験則が『どんな立場であってもお客様のことを考え、行動する』という永井社 長の経営理念の礎となっているのです。

 現在、東神電池工業は車の電池関係のほか、原子力発電所のバッテリー関係など官公庁の受注を受け る県内唯一の企業に成長しています。「自動車関係のバッテリーなどの補修などからスタートした会社ですが、現在は産業用蓄電池や電装設備の設計、施工、メ ンテナンスなどが主力になっています。非常時にバッテリーが果たす役割は大きく、需要が増しています」と現在の主要事業拡大の可能性について語ります。ま た、バッテリーという特殊な産業に身を置く立場として、「日々進歩する技術にいち早く対応しなければなりません。技術やサービス、メンテナンスはもちろん ハイテクに対応できる人材を育てることが大切です」と人材育成も最優先事項として取り組まれているそうです。

 また、昨年末には東日本大 震災で大きな被害を被った旧社屋を新設に踏み切った同社。社員一同、新たなスタートを切りました。しかしそこはさすが永井社長、ただ新しくするだけでな く、地域の人にも役立つような社屋建設を目指しました。「その社屋は非常時に地域の皆様の避難所としても活用できるように作りました。太陽光発電などの設 備を整えており、また大きな震災があるときにはここでは電気が切れる事がなく、多くの方々のお役に立てると思います」と、バッテリー会社としての特性を生 かしつつ、地域のリーダー的企業として常に地域の人々の安全・環境にも配慮することを忘れることはありません。

 一時は方向性に迷い、茨 城から遠く離れた地で生きていこうとしていた永井社長。祖父、父から受け継いだ家業をますます発展させるべく、5年後、10年後の会社の将来を見据え、そ の実現のため今日も尽力し続けています。新社長として社内や地域に新たな風を吹き込み、多くのことにチャレンジしていくその強い決意―。これからも永井社 長の動向から目が離すことはできません。

Pick up Success in IBARAKI

“「人に優しく」をテーマに事業・社屋も推進”

質問1茨城は起業するのに適しているか?
工業団地や最先端の科学技術産業がある茨城では他県に比べこの分野で起業のチャンスはあると思う
質問2経営を始める際にやるべきこと、また、必要な準備は?
スクラムを組んでいける優秀なパートナーが必要だ。10年後の会社の将来像を描いて、「こうなりたい」というビジョンを描くことが必要だろう。
質問3この土地で有効なプロモーション活動は?
ホームページの他に特別プロモーションは行っていない。地元新聞に定期的に広告を出している程度で特別なことは行っていない。

これから起業する方への一言

“明確な夢を持って欲しい”

明確な夢を持って欲しい。具体的な目標を作りそれに向かってビジネスを進めるべきだ。それを達成するのは自分だけの幸せだけを考えるのでなく、社員・取引 先・お客様の幸せを常に考えているべきだ。売り上げは手段であって目的ではない。あくまで自分のためではなく社会のため、と思って物事に目を向けて欲しい と思う。

■人生を変えたのは母親の一粒の涙
■地域に優しい企業として生きる道を選ぶ
■明確な将来像を描いてまい進する



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