President file
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滝味の宿 豊年万作
代表取締役  阿久津 みと里さん

守らなければならない「伝統」と
時代のニーズに合った
新しい価値観の「創造」

大子町出身。水戸三高、目黒ドレスメーカー卒。ホテル旅館業の経営者として接客業の最前線に立つ。袋田温泉「豊年万作」の経営者、女将として手腕を振る う。現在「いばらき女将の会」副会長、大子町観光協会副会長、大子町開発公社理事などの要職も兼任。唯一の楽しみは神奈川県逗子に住む娘さんのところで静 養し、リフレッシュすること。

Owners Company
滝味の宿 豊年万作
TEL.0295-72-3011
http://www.fukuroda.co.jp/
久慈郡大子町袋田169-3

低迷する大子観光のジャンヌダルクとして期待を集める
地域との連携、そして発展の未来をみつめる

四季折々に違った顔を見せる袋田の滝。その滝に一番近い温泉旅館が「豊年万作」です。創立は昭和35年、阿久津さんの父親が始めた「滝川館」でした。15 年前に全面改装して現在の「豊年万作」と宿を改称。12年前に阿久津さんは父親の跡を継いで、女将、代表者として経営に携わっています。今でこそ「会社の 代表」・「旅館の女将」という二つの顔を淡々とこなす阿久津さんですが、はじめからこの仕事をやろうと決めていたわけでもなく、むしろ興味すらありません でした。

 阿久津さんは水戸の高校を卒業後、本来の夢であったデザイナーを目指して上京。デザインの専門学校へ通いますが、上京後数年で父親からの帰郷指令もあり志半ばで実家に帰ることになってしまいました。

  「豊年万作」を引き継ぐきっかけは父親の高齢化でした。父親も会長職としてサポートはしてくれたものの、実質の経営は阿久津さんにゆだねられます。けれど も旅館の経営という業務内容にまったく知識がなかった阿久津さんにとっては、当然右も左も分からない世界。とりあえずは見よう見まねで父が作り上げた施設 をそのまま継続しなければなりませんでした。でも、メンテナンスや修理ひとつ頼むのにもどこへお願いしたら良いのか分からないという始末、旅館の経営者と しての新たな仕事に戸惑うことも多々あったといいます。「とにかく、父の作り上げてきた実績を守らなけらば」の一心で、無我夢中に働きました。旅館業はホ テルなどの宿泊施設とは、またちょっと異なった独特のサービス感も必要とされます。今では、父親が築き上げてきた伝統を重んじたサービスのあり方と、時代 の変化により求められる新しいサービスの融合を日々考えながら毎日を過ごしています。

 時代は団体旅行から個人、グループの小旅行へと変化していきます。インターネットなどの情報化社会の到来で、旅のスタイルが激変し、お客さまの要望も多岐にわたりサービスも多様化することになります。

  「特に気をつかうのはお食事ですね。昔は生もの、揚げ物は駄目という方がおりましたが、今はアレルギーにより卵は駄目、小麦は駄目、甲殻類は駄目と言われ ます。そればかりではなく、そばアレルギーの方は、同じ釜でうどんをゆでないで、といった細かな要望まであります」と阿久津さん。「調理場で親方張る人も 大変ですが、さらに細かな要望にも対処してゆかなくてはいけません」と、変化し続けるお客さまの要望をかなえるために、裏ではものすごい苦労と努力が続い ているのです。
さらにお客さまの「記念日のサプライズ」のお願いも増えているそうです。「記念日のお祝いプランなどで、記念品をご用意するために水戸まで買い物に行ったり、従業員全員で演出を考えたりと、お客さまに喜んでもらえるためには、最善を尽くします」と阿久津さん。

 その中にはプロポーズを成功させたいというカップルもいたそうで、「願いを叶えてあげたい」という一心で、接客係から裏方まで全員がお客さまの念願を果たすために尽力。見事、カップル誕生にこぎ着けたというエピソードもあります。

 そのような時代の変化によって旅館業の仕事も日々大きく変化しています。阿久津さんにも数々の発想の転換が求められてきましたが、常にお客さま目線でのサービスを実行してゆく事を基本に考えています。

  そのひとつが「畳の上にテーブルを置いて食事をし、心身ともにくつろいで欲しい」というものでした。高齢者にとっては足の痛みを訴える人も多く、また、若 い人には座敷で座るのが苦痛となっているという現状を察知し、いち早く畳部屋の食事の席にテーブルを持ち込んだのです。

 「県内では他ではやっていなかったサービスですが、最初は驚かれますが、皆さん喜んでくれています」と、奇をてらうのではなく本当にお客さまの事を思う気持ちを実践する行動力がサービス向上へとつながっているようです。

  大子町袋田には滝もあり、温泉もありという恵まれた観光地のように思えますが、そんな観光資源について阿久津さんは苦言を呈することも。「袋田の滝は一度 見ればいいというお客さまもいます。ほかの旅館さんからは『袋田は環境が整っているから良いね』と言われますが、滝だけを売っている商売で満足していては 遅れていってしまします。環境に頼る事ばかりではなく、自分達が新しい大子の価値観をPRしていかなければならない」と、地元農業生産者との連携も強化し ています。
「大子には約60軒のリンゴ農家がありますが、外部の市場に出すことはなく、そのほとんどが観光客向け販売に徹しています。そこで売 れ 残ったリンゴを使ってアップルパイを作ってみました。それが人気を集め行列ができるほどになり、本当は冷やして食べる方がよりおいしいのですが、今ではや むを得ず焼きたてを売ることになったのです」、阿久津さんが作ったアップルパイが袋田の名産品として人気を博することになりました。

  現 在、阿久津さんはさまざまな公職にも就いていますが、その視点は「どうすれば袋田や大子が良くなるのか」ということに向けられているようです。観光客の減 少に悩む中、生産者や商店、地域全員の意識改革を迫られています。幸い、ご子息の常務・博史さんが母親の阿久津さんの背中を押しています。変換期にある大 子観光の未来に向かって、また新しいチャレンジが期待されます。

Pick up Success in IBARAKI

“観光資源だけで満足していては発展はない。
地域全体で努力を”

質問1茨城は起業するのに適しているか?
茨城は地域も広く、それぞれ条件が異なる。大子は環境が整っていると言われるが、それに満足していては駄目。
質問2経営を始める際にやるべきこと、また、必要な準備は?
観光業は厳しい状況にある。行政に頼るのではなく、時代時代の変化や情報に目を光らせることが大切。いろんなものを見て刺激をうけることも大切。
質問3この土地で有効なプロモーション活動は?
現在はインターネット社会でSNSなどで情報発信している。一方で紙媒体なども利用、情報発信が絞りやすくなっている。上手く使い分けるのが有効。

これから起業する方への一言

“必要に迫られてやっていては満足は得られない”

仕事を好きになり、常に向上心を忘れずに。必要に迫られてやっていては満足は得られない。私は人見知りと思っていたが、周りの人からは向いていると言われた。やってみないこと分からないことがあるが、前進して行って欲しい。

■お客さまの多様なニーズに対応する
■常に最新情報には目を光らせる
■地域と連携し、一体となって観光を盛り上げる



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